きおくのへや

キモオタリアリティ

夏空のモノローグ

色々あってとても時間ができたので気になってたゲーム少しずつやってます。色々あってと言うべきか何もないからと言うべきか。
プレイしたゲームの中にはエンディングまでいかず途中でやめてしまったものもありました。それらについてはわざわざ感想記事を一本書くまでもなく、今年やったゲームを年末にでもひとまとめに列挙して、少しだけ感想添えるくらいにしようと思っていました。

この作品も「いまいちだったゲーム」のうちの一つになる予定でした。

夏空のモノローグ Portable (通常版) - PSP

夏空のモノローグ Portable (通常版) - PSP

 

 
以下ネタバレ含む感想

 


─ここから

いとこのお下がりのプレステで金のしおりを手に入れるまでかまいたちの夜をやった小学生時代以来のコンシューマーノベルゲーム。今見たらCERO-Dって書いてあるしピンクのしおりの音源は子供が聞くようなものではなかったし。

記憶喪失になって以来人との関わりがうまくいかず塞ぎがちだったヒロイン。その心の拠り所である科学部最後の日である7月29日を何度も繰り返すループ物。
周回ごとにシナリオが少しずつ変わる。全ルート攻略することで謎が解ける仕組みになってるらしいけど、三人目途中までやって投げた。
「科学部がなくなったら私たちはバラバラになって、互いのことを忘れていってしまう」「だから明日が来ないほうが幸せなのかも」という大前提にいまいち切なくなりきれなかった。毎日部活で会ってるんだから部室がなくなってもどこかで会えばいいじゃん!
私はろくな過去がないので、どんどん明日が来て過去が遠くなっていったほうがマシだと考えてるからかも。
あとギャグパートの台詞回しが肌に合わず。つまらなかったわけではないけど、もういいかなという感じ。自分の感性のせいで惜しかった。

─ここまで書いてからやっぱり真相は気になって結局フルコンプ。
木野瀬一輝→沢野井宗介→篠原涼太→加賀陽→浅浪皓→綿森楓 の順でクリア。

いや面白かった。最後までやってよかった。すごい掌返しだ。
個別ルートで「そこまでじゃないな」と思った人こそフルコンプして真相ルートを読んだほうがいいと個人的に思う。ループの真相が明らかになるからというのもありますが、そもそも小川葵の抱える問題の根幹にある母親との不仲が解消される過程、スッキリします。
ストーリーに没入しきれない原因であった「科学部廃部」の悲しさは周回ごとに染みてくるようになった。
ギャグは相変わらずツボじゃなかったんだけど、楽しそうに過ごしてる彼らに愛着が湧いたのと、一人ひとりの事情を知るうちに「また会えばいいじゃん!」と簡単に言えないのだなと実感した。
ツリーができた経緯や綿森楓のたどった人生はまあ冷静に考えるとぶっ飛んでるという意味でもひどすぎるという意味でも割とトンデモなんだけど、普段SFとか読まないからそう思ったのかもしれない。


先述した通り、個別ルートはそれぞれいい話だな、爽やかに終わったな、とは感じつつも、すごく感動した!とまではいきませんでした。科学部メンバーそれぞれの抱える事情は、フィクション世界の中で起きる「悲しい出来事」として割と定番なものが多かったからです。
好きな相手が自分のせいで(と本人は思っている)記憶を失って、自分と過ごした日々を忘れてしまう。
好きな人を日本に残して留学することになっているので、冗談めかすことでしか恋心を伝えられない。
どんどん悪化していく記憶障害により、いずれ何も覚えていられなくなってしまう。
入院中の弟がいて、もう助からないと宣告されている。
話を読みながらもしかしてこういうことなんじゃ……と思ったらだいたい当たる。
部長は……まあストーリー自体はタイムリープ物としてはままある展開ではあったんですけど、ちょっとスケールが違うので除外。あの人は色々と知りすぎている。マジの天才。

ヒロインも攻略対象も何らかの事情を抱えてたり過去に囚われていたり、それぞれいろんな事情により「早くループが終わればいい」とか「ループが永遠に続けばいい」とか考えていて、それを二人一緒に乗り越えて、前向きな気持ちで明日へ踏み出そうとする話。
どのルートも「ループが終わる瞬間」で締めくくられるのはちょっと寂しいけどその後の二人についてはご想像にお任せってことだよね、と思っていたら断じてそんな理由ではなかった。そもそもその後が存在していなかったというのはビビる。
部長ルートでの「真実を知ったらきっと君は僕に失望する(うろ覚え)」も、過去改変により科学部の存在が消えるからというだけの理由ではなかったのにも驚いた。


ただスッキリしたと同時にやるせない感じもある。
両想いになってエンディングに到達してもそれは全てなかったことであり、でもその積み重ねがなければ7月30日は来なかったと考えると完全に無に還ったとも言えず、しかし結局想いを通じ合わせた二人が迎える7月30日は存在しない。
全員集合した科学部と、明日に向き合えるようになった葵が迎えた7月30日。
木野瀬くんは相変わらず葵のことを後悔したまま、部長は「あの日に戻って父を救えたなら」と思い続け、カガハルくんは日本を発ち、篠原くんはいずれ何もかもを忘れてしまうのだろうし、先生は恐らく弟を失う。
それぞれが個別ルートで得た救いはこの世界には存在していない。明日が来ないことを願ってループを引き起こした小川葵自身が前を向くことが一番重要なのはわかるんだけど。
解決したようでしていない。まあそのやりきれない感じもこの作品の味だと思う。
最後の最後、10分の1の確率を乗り越えて科学部はまた集まることができたんだから、きっとみんな幸せになることが……できて……ほしいな! と思う終わり方です。
乙女ゲームというよりはヒロイン成長ゲームとして楽しみました。彼女が迎えた結末に、明日を受け入れる姿に励まされました。月並みですが、自分も頑張って生きようと思えた。
異様なまでの甘党は健康を害しそうでハラハラする。ただでさえ記憶を失ってしまって大変な思いをしたんだからもう病院の世話になるようなことはないようにね……


あと少なからず価値観が変えられたゲームです。
私はシナリオ中で出てくる多世界解釈とかコペンハーゲン解釈とか、身近なところだと幽霊とか超常現象とか、確かめようがない(と私は思っている)話には興味がなくて、全部ひっくるめて「あほくさ」と一蹴するまあつまらない人間でした。自分は二次元キャラやフィクションの世界にのめり込みまくってるくせに嫌なやつだ。
簡潔に言うと、何事もいろんな可能性があるって考えたほうが面白いじゃん! と思うようになりました。
量子力学の本とか読んでみようかなと思った。頭弱いのでついていけるのか不安ですが。

真相を知った今、もう一度最初からやって「ここはこういうことだったのか!」と楽しみたいところではあるんだけど、もうループは起こさないほうがいいよな……と考えてしまったり。
しばらくしたらまたまっさらなところからやりたいと思います。


長くなったので最後に一番好きなキャラについて少し。

木野瀬一輝
ツリーの前で木野瀬くんを待ちながら最高に幸せな気持ちだったであろう葵の「この幸せな日々がずっと続けばいい」という些細な願いによってあんなことになってしまったの、残酷すぎでは。誰も悪くないからこそ辛いよね。
他ルートで葵の背中を押している姿を見るたびにどんな気持ちでこんなこと言ってるんだろうかと切なくなるので、彼を一番手に選んだのは失敗だったと思った。メインっぽいキャラからいくのはやめとけとときメモで学んだはずなのに……
ループが終わることを拒む理由が葵のためなんですよこの子。記憶があろうとなかろうと、葵のことを本当に大事に思ってるんですよ。
医者から「彼女に必要なのは過去ではない」と言われ、葵自身からも「昔の私と今の私は違う」と拒絶されてしまったことがある種トラウマになっていて、彼は今の葵も好きで、葵も木野瀬くんのことが好きになったのに、「自分が指定した待ち合わせ場所のせいで」という消化しきれない罪悪感や、やっぱり大事に思っている葵との過去の思い出を引きずってなかなか受け入れられない。
このうじうじしたところがもーーー好きで……腹をくくれ木野瀬! と思うと同時に、踏み込めない気持ちがすごくわかって辛くもなる。
7月30日以降、彼が救われることを祈っています。幸せになれよ。
あと絵柄が優しいので作中でヤクザか何かかと評価されている彼の顔が全然怖く感じなかった。